あれはまだ女王に即位したばかりの春の一夜。

満月が恐ろしい程に黄金色に輝いていた夜だった。


今宵も当に満月。

その黄金色の月に照らされながらそっと目を閉じると……

月城の石垣を取り囲むように咲き乱れ、辺り一面を黄金色に染める菜の花たち…

そこでピダムと一夜を過ごした思い出が鮮やかに蘇る。




月城の桜が満開となり城では司量部令主催の花見の宴が盛大に催されていた。

何時もは真面目な上将軍ユシンでさえも酒を飲んで酔った為に大きな声で隣に座るウォリャと楽しそうに談笑してる。

それ程に月城に咲き乱れる今宵の桜は妖しい程に美しかった。


盃の中に薄紅色の桜の花びらが一つハラハラと舞い落ちたのを見た女王は何時もは人前では決して飲まない酒を口にした。


「なんと粋な振る舞いをする桜よ。私に酒を飲ませるとは…」

と独り言のように囁いた。

居並ぶ人々の声にかき消されてお付きの女官さえも気付かなかった言葉をただ一人司量部令ピダムだけが気付いた。


(陛下が珍しく御酒を口にされた…)


女王の優雅な所作を見逃すまいとピダムはじっと女王を見詰めた。

女王とピダムの周りだけ時間が止まったようにゆっくりと時が過ぎて行く。


更に時が経つと酒を飲み過ぎてその場に突っ伏して眠る者、宴を抜け出す者が続出した。

公式の宴ではあったが最初から無礼講とふれわたっていた為、女王がいつの間にか退出しても誰もそれに気付かないでいた。


女王は仁康殿に戻ると女官に命じて就寝の準備を始めた。

女王の堅苦しい正装を脱ぎ、夜着に着替え髪を解き櫛梳り、やっと解放されたその折れそうな程にほっそりとした身体を寝台に横たえていた。

其処に司量部令が今宵の宴の御礼の挨拶に参ったと女官が取り次ぎに来た。

女王は夜着に上衣を羽織ってピダムを出迎える準備を整えると女官に向かい


「司量部令を通してくれ……それと司量部令が部屋に入ったら、皆下がって休むが良い」

と声を掛けた。


間もなくピダムが足音も立てずに部屋の開き戸の前まで来て声を掛けた。

「陛下。入って宜しいでしょうか?」


「入れ」


ピダムが部屋に足を踏み入れると静かに戸が閉まり、穏やかな表情で女王がそれを迎えた。


「ピダム。ご苦労だったな」


「陛下。お楽しみ頂けましたでしょうか?」


「ああっ、十分過ぎる程に楽しんだ。今年の桜は本当に美しい」

女王が嬉しそうに話をするのを見てピダムは更に続けた。


「陛下。夜桜も美しいですが、今宵は満月、月の光に照らされて城外の菜の花が黄金色に輝いて見えます。如何でしょう。これから私と花見に出掛けませんか?」


「ピダム。冗談を言っているのか?」


ピダムは少し困った顔をしながら


「いいえ、陛下。本気で申し上げております。ピダムがお守りします故。何卒」

と言うなり深く頭を垂れた。

至極真面目なピダムに女王は


「お前がそう言うのなら…行って見ても良いが。秘路から抜け出すのか?」


「はい。陛下。左様でございます」


「では暫し此処で待て。着替えをする」


そう言うと女王は奥の部屋に入って行った。



ピダムが片手に灯火を持ちながら、もう一方の手で女王の手を引き秘路を導き歩く。

二人しか知らない秘路を実際に歩いたのは今夜が初めてだった。


「ピダム…暗いな。でもお前と二人なら怖くない」


「陛下。もしもの場合私がご一緒出来るかどうか解りません。どうぞその時の為にも時々秘路に入り、あらゆる路を把握して下さい」


「これを使わないで済むのが一番だがな…」

そう言って女王が小さなため息をついた。

ピダムはそんな女王を気遣い


「心配なさらないで下さい。ピダムがこの身に変えて陛下も神国もお守り致します」

そう言うとピダムは女王の手をギュッと握った。




秘路の二重扉を開けてピダムが先に外に出て辺りの様子を伺っいる。

精神を研ぎ澄まして人の気配を感じとろうとしているピダムの身体からピリピリとした気が湧き出ている。

一緒に居る女王は何時にも増して辺りを気にするピダムの様子に少し不安を感じていた。

暫くしてピダムの合図を確認してから外に出た女王は感嘆の声を上げた。



「……綺麗だな!」


見渡す限りの黄金色!遠くに月城の桜が霞のように見える。

その頃、城内ではある事件が起こっていた。




続きます♪
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  •   23, 2012 22:39




今日はのんびりとお花見をしたくなるような気持ちの良い日ですね♪

管理人は昨日近くの日帰り温泉で湯に浸かり身体を休めて参りました。

ちょっと風が肌寒い日でしたが庭の桃や桜が同時に咲いていて綺麗でした。

春は沢山の花が見られるので心がウキウキします。

ウキウキするのでお話がどんどん頭に浮かんできます。

今日のお話は花を題材にしました。

ユシンがあまり良い人に描かれていませんので(管理人のSSのユシンは『階伯』のユシンのイメージに近いです)

オムさんファンの皆さんには申し訳ありません<(_ _)>






朝方は空に何1つ無かったのに昼前には筋雲が現れ暖かな南風が吹き出した。

この暖かさで、内苑にある水仙が蕾を綻ばせているだろう。

風に揺れる可憐な黄色い水仙を見に内苑まで行きたい所だが今日は午後まで予定がびっしり詰まっている。

私が其処に行く頃には暗くなって見えなくなってしまうだろう。残念なことだ。

思わず溜め息をついた所に女官が水仙の束を抱えて部屋に入って来た。


「陛下。此方へ飾るようにと申し付けられました。どちらへ置きましょうか?」


「ああっ、其処の卓の上に置いてくれ。それにしても良い香りだな…」


「左様でございますね。」


「して、誰がここに飾るように申し付けたのか?」


「はい。陛下。ユシン公から先ほど届け られました」


「ユシンが…」


「はい」


女官が部屋から退出するのを見届けてから女王は水仙の活けられた花瓶に近付き、その甘い香りをそっと嗅いだ。


(ああっこの香りだ。土の中から芽を出したと思うとあっという間に蕾を付け…春の陽光と共に美しい黄色い花を咲かせる。その生命力と甘い香りで近付く者を魅力する。西方の話にも、水に写った自分に魅入られて遂には水仙になった者もいるという。不思議と心惹かれる花だ)


女王は涼やかな顔で便殿会議の為に仁康殿を後にした。


便殿では上大等ヨンチュンら大等たち、司量部令ピダム、内省使臣チュンチュ、上将軍ユシンらが女王の歩く毛氈の左右に並び皆神妙な顔で今年の税収入について話し合いをしていた。



「陛下のお成り!」


皆が頭を垂れる。

女王は赤い毛氈の上を軽やかに歩を進めていく。

黄金の冠の飾りとトゥリゲがシャラシャラと音をたてる。

たおやかな女王の所作に居並ぶ者全てが目を奪われている。

女王が王座へと続く階段を上り、ゆったりとその座に着くと眼下に並ぶ臣下たちを見渡した。



「皆、揃っておるな。知っての通り、今年の租税の見直しをしたいと思う。誰ぞ意見のある者はいるか?いないのなら…」


上将軍ユシンが珍しく手を上げた。


「陛下、宜しいでしょうか?」


「ああっ申せ」


「自作農の租税の件で申し上げたきことが御座います。昨年開墾した地区は別として、それ以前に開墾した土地を所有する自作農につきましては収穫に大分差が出ているようです。平均以上の者には5分課税し、以下の者は5分減らす。さほど変わりは無いように思えますが不公平感は多少なりとも抑えられるかと思えます。それと…昨年から今年にかけて大きな戦いが無かった為に兵糧米が余っております。これを使って救恤活動をされては如何でしょうか?」



「上将軍、素晴らしい考えだ。皆もそう思わないか?」


女王はユシンに微笑みかけた。ユシンは更にこう続けた。



「陛下。兵部の兵たちを使って荒れ地の開墾をされるのは如何でしょう?戦のない今は一石二鳥の軍事訓練にもなります」


「上将軍の意見は最もである。皆どうであろう!ユシンの意見を取り上げても良いか?」



上大等ヨンチュンが頷きながら


「ユシン公のご意見は最もです。早速各地の自作農の出来高を調査して見たいと思います。各々方、それで宜しいか?」


誰も反対する者はいなかった。


それを見たユシンは更に言葉を続けた。


「兵部の兵が荒れ地を開墾をすると同時に陛下ご自身の行幸を賜れば、各地の貴族も農民たちも歓待致しましょう。どうか、そちらもご考慮願えませんでしょうか?」





***

租税と軍事訓練、更には女王の行幸までも結びつけたユシンの考えに女王はいたく感心しそれを労う為に、久しぶりにユシンと夕膳を取ることにした。その席で


「陛下。此のように陛下と二人で膳を囲むのは久しく、これ此のように手が震えております」


とユシンは右手を左手で押さえながら言ったのを見て、女王はにこやかに微笑み


「そうであったか?」

と短く答えた。



「陛下…陛下の杯に御酒をお注ぎしとうございます。そちらに行っても宜しいですか?」


そう言って椅子を立ち上がり女王の真横に立つと女王の杯に御酒を注いだ。

そして腰を少し曲げて顔を女王の耳元に近づけて囁いた。


「陛下…今宵の伽も…どうぞ私にお命じ下さいますように…」


ユシンは自信たっぷりな顔で女王に迫った。

正面を向いた女王の顔が幽かに歪んだことにユシンは気付かなかった。


「今宵は疲れた。だから一人で寝たい。誰も閨には呼ばぬつもりだ。許せ、ユシン」


女王はきっぱりとその申し出を断った。



その後、席に戻ったユシンと和やかな会話がなされ、夕膳も終わり、香りの良いお茶を二人で飲んでいる何処にピダムが定時報告へやって来た。

ピダムは何時も通りに手短に報告を済ませると御前を辞し、女王は再びユシンと二人きりになった。

ピダムが仁康殿から立ち去ったことに安心したのかユシンも暫くすると


「ではそろそろ私もお暇致します。どうぞごゆるりとお休み下さい」

そう言って頭を下げると仁康殿を後にした。





***

苦々しげな顔でピダムは司量部に戻ると椅子にドシンと座り、政務報告書を見返した。

何時もの癖だったが…

パラパラと捲って行くと中に小さな紙が挟んであった。

(誰かの悪戯か?)

紙を開いて見ると紛れもなくそれは女王の字で書かれた手紙だった。


『今宵、申の刻仁康殿に参られよ。但し、神殿からの秘路を使って来られたし』


ピダムは読み終わると近くの灯火でそれを燃やした。





***

仄かな灯りが二人の影を揺らす。


「ピダム、知っていたか?ユシンが何を考えていたか」


「……」


ピダムは黙っている。


「昼前に、ユシンが彼方にある黄水仙を贈って来た。嬉しかった。実はな、水仙が咲いたかどうか気になっていたのだ。…だが、あの便殿会議が終わって暫し考えた。あの発言と言い、何の考えもなしにあのユシンが花など贈って来るだろうかと」



「陛下……陛下が黄色の水仙がお好きなのは皆が知っていることでは?」



「確かにそうだが……ピダム、黄水仙の花言葉を知っているか?」


「いいえ、存じません」


「もう一度振り向いて欲しいと言う意味があるのだ」


ピダムはえっと小さな声を出してから


「陛下…それはつまり…」


「そうだ。だから今宵は誰も此処に居てはならないのだ」


「此処に居てはならない。ならば今宵は何があっても許されると言うことですか?陛下?」


ピダムは意地悪い顔をしながらそう言うと、その表情を蠱惑的なものに変えて女王を抱きしめてから、

その額に…目頭に…頬に…最後に唇に口付けを落としていった。


「陛下…明日の朝、私も陛下に花をお贈り致します。黄水仙ではなく雪柳の花を沢山持って参ります」


「雪柳を?その意味は何だ?」


女王はそう質問したがピダムは女王の息を奪う程の口付けで女王を蕩けさせ、その後の言葉を全て遮ると女王の夜着の帯を解いた。

女王の身体は既に熱を帯び始めている。

ピダムはその夜も女王に色を供し、臣下として自らの全てを女王に捧げ…

その心で女王に愛を点した。



翌朝、目覚めた女王の寝台の周りは雪柳で囲まれていた。

女王はその意味など解らなくても良いと思った。

白い雪柳に包まれて…ただ幸せだった。





*雪柳の花言葉は愛矯・愛らしさ・懸命・静かな想いだそうです。





☆★☆★☆

実は管理人、雪柳がとっても好きなんです。

一つ一つの花は凄い小さいのに見た瞬間「ああっ綺麗だな!」って毎年思います。

何故でしょうか?清楚で控え目な美しさとでも言いましょうか。

優しい感じに心が癒されるのかもしれません。

ピダムは控えめな男ではありませんが、時にはこんな風にトンマンの心を春風のように

優しく撫でて、その心と身体の両方を持って行ってしまう。

管理人の理想のピダムはそんな男です(笑)

最後までお読み頂きましてありがとうございました(^_-)-☆




皆様、こんばんは~(^3^)/

昨日までの雨はどこに行ってしまったのか…

関東地方は午後晴れて気温が上がり、『夏』のように暑かったですねぇ~


管理人がブログを始めて…今日から5ヶ月目に入ります!

早いですね~

そして4月に始まったTV東京版『善徳女王』も本日最終回を迎えました!

何回見ても涙がルーーー(T_T)

ルーーーと泣きながらも、ピダムの最期のシーンのBGMがIUの『風花』 なのに気付きました。

ん、これの方が良い(^^)v



今夜は少し前に  ̄(=∵=) ̄様 が管理人の為にピダムの『剣』を題材にして書いて下さったSSへのお返し?に…テヤンもピダムの『剣舞』のSSを書いて見ました~

剣舞を表現するのって凄い難しかったです。

そしてちょっぴり、自分の思っていた感じと違う方向に行ってますが(←どんな方向かと一口で言えば、スパーンって感じなんですが…えっ(((^_^;)

そんな管理人の思惑は無視して、お読みになって見て下さいね~






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