春の柔らかな日差しの中に絵から抜け出たように美しい女と男が立っている。

緋色の衣を着た女王がその御身を預けるようにピダムに寄り添い、漆黒の衣を着たピダムは今にも女王をかき抱かんとしている。


そんな仲睦まじい姿をひっそりと垣間見ている男が居た。

黄金で出来た甲冑をその身に纏い、見事な髭を蓄えたその顔に決して動かぬ深い眼差しを湛え、人々から巌の大将軍。
新羅の護り神と讃えられる上将軍キム・ユシンその人である。
ユシンは女王が郎徒の頃から女王を愛し続けて来た。

公主時代は元より今でも色供の臣として名を連ねてはいるが…ここ数年女王からの閨への御命は全く無かった。


(何故ピダムばかりを重用なさるのか…)


ユシンは女王を恨めしく思った。



「ユシン公」


そうユシンに声を掛けたその男キム・チュンチュは女王の甥である。
凛々しい眉と切れ長の艶のある瞳を持つ美丈夫で、その微笑みは徐羅伐中の女を魅了する。


「チュンチュ公」


「何をご覧になっていらっしゃるのですか?……ああっ陛下とピダムですか?」


「……」


「羨ましくお思いですか?」


「……」


「何故自分は閨に呼ばれないのか?何故ピダムばかりを重用されるのか?そんなところでしょう?…違いますか?」


ユシンはチュンチュの目をじっと見ながら


「そう言う貴方こそ、そう思っているのではないですか?私の妹を妻にしながらも、陛下の色供の臣に加わろうと影で動いていらっしゃるのを私は知っております」


それを聞いたチュンチュがユシンの耳元に近付き囁くように…


「それなら尚更話が早い。ユシン公…私は陛下を…いえ、あの美しい叔母上を私の腕の中で鳴かせて見たいのです。女王の正装を剥ぎ取りその中のほっそりとした乳白色の御体を一度で良いから抱いて見たいのです」


ユシンはチュンチュをじっと見返しながら


「チュンチュ公、お気持ちは良く解ります。あの至高の女人を一度でもその腕にしたら他の女人など只の木偶の坊になってしまいます故」


不敵な笑いをその口の端に乗せてユシンはそう言うとチュンチュに一礼してからその場を去って行った。


チュンチュはその切れ長の目を女王とピダムに向けると目を細めて


(ピダムめ、お前は本当に油断ならない男だ。陛下が色事に全く持って関心がないことは解っているが…お前が側で陛下にふりかかる火の粉を未然のところで防いでいるのは皆承知している。更にお前は陛下が閨に自分以外は呼ばないことを知っていて、色供の臣には多数の者の名を上げさせる。お前を羨む輩は多いぞ。ピダム…)


そう吐き捨てるように呟くとチュンチュもその場を離れて行った。





病み上がりの女王はカチェは着けずに髪を軽く結上げ、女王の正装ではなく赤い上衣を羽織るだけのゆったりとした格好をしていた。
そしてその御体を人前に見せたのは3月振りだった。
重い心の蔵の病とされていたがそれは表向きで、実は女王は子を産むために秘路にある一室に籠っていたのだった。

何故籠らなくてはならなかったのか。
それは他でもない司量部令ピダムとの間に出来た子だったからだ。

もし二人の間に子が出来たら…それはチュンチュにとって大きな障害になる。
詰まる所、王位継承の争いの火種となってしまう。
それを恐れた女王とピダムは出産を二人だけの秘密にしようとした。
しかし子は無事に生まれては来なかった。
あまりに長い陣痛の後、子は息をせずに生まれて来た。死産だったのだ。
出産時に力を使い果たした女王は気を失った。
そして目覚めて、その事を知った女王は半狂乱になった。
勿論それをピダムが長い時間を掛けて宥め、片時も離れず看病をした。

やっと女王の心と身体が落ち着きを見せ始め、女王の御体を仁康殿に戻すことが出来たのが昨晩のこと。
夜が明けて…
久しぶりに窓を開け放してピダムが女王を誘う。


「陛下…こちらへいらっしゃって少し外をご覧になられては如何でしょうか?丁度梅の花が見頃でございます」


女王はぼんやりとピダムの方へ視線をやると小さく頷き、寝台から降りるとそろそろと歩き出した。
そんな女王をピダムは心配そうに見詰めている。
それに気付いた女王はピダムに向かって笑って見せた。


「陛下…」


その精一杯の作り笑顔が悲しくなったピダムは女王に歩みより、更にほっそりとした身体をそっと抱き寄せた。


「陛下…ご無理はなさらないで下さい…」


「…ピダム。大丈夫だ」


女王はピダムに心配を掛けまいと必死に言葉をつぐむ。それがピダムには痛々しかった。
そんな女王をピダムは真綿に包み込むように優しく抱き締めた。


「陛下…御本復のお祝いにこれを作りました」


ピダムの手のひらに乗っていたのは金と翡翠で出来た豪奢な作りのトゥリゲだった。


「陛下…ピダムがおつけしても宜しいでしょうか?」


そう言うとピダムは女王の左の耳たぶにそっと触れてトゥリゲを小さな穴に差し込んだ。
もう片方も同じように差すのだろうと女王は待っていたが


「陛下…申し訳ありませんが片方しか差し上げられません」


何故だ?と言う顔で女王がピダムを見たのでピダムは続けて


「もう片方はあの子につけて送り出しました。陛下がやっと立ち直られたのに…思い出させるような振る舞いをお許し下さい」


そこまで言うとピダムはひと息ついてから静かな目をして


「父として…あの子の父として最初で最後の贈り物をしたかったのです。」


そう心の底から絞り出すように囁いたピダムの声に女王は、子を失って悲しんでいるのが己だけではないことを…
ピダムも深く傷ついていることを知った。


「ピダム…」


女王の頬を涙が一筋流れて行く。
だがそれは悲しみの涙ではなく慈愛の涙へと変わっていた。


(ピダム…ありがとう。逝った子を愛してくれてありがとう)


微笑んでいるのか泣いているのか、不思議な表情で困惑しているピダムを女王はギュッと抱き締めた。


「ピダム…あの子は私たち以上に仏に愛され過ぎてあの世に召された。そう思うことにする」


「私にはお前がいる。お前がいればそれで良い…」


そう言うと女王はピダムの唇にふわりと口付けを落とした。


(決して忘れない…吾子よ)


その時耳元の金のトゥリゲがシャラリっと音を奏でた。


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皆様、こんばんは~(^o^)/

今日はお天気が午後から崩れるとの予想でしたが何とかもちましたね!

管理人は本日は剣客商売をして参りました。

現在、ワインを呑みながらこのご挨拶を書いております(本文は既に書き終えてました(笑)

今回はピダムの乱寸前のお話です。

これはあくまで管理人の妄想ですm(__)m

トンピの日常を書きたいのですが…女王時代はどうしても儚げな話になってしまって(((^_^;)

宜しかったらお読みになって下さい。





百済が内侵して大耶城を攻め落としたとの知らせが入り、急遽開かれた便殿会議で女王がピダムを上大等に任命した。

ピダムと共にこの徐羅伐に残り死を覚悟しての防戦をする為だ。

大将軍ユシンは悔しかった。

女王が選んだ男が自分ではなく、公主時代から女王を共に支えて来た双璧の片割れピダムだったからだ。


(やはり陛下は私ではなくピダムをお選びになるのか!)

ユシンの不満は更に大きく膨らんでいった。

(陛下はピダムばかりを重用される。確かに奴は見目良く、貴族の女たちや女官の間でも噂になる程に女の扱いが上手い。だからと言って浮いた話がある訳でもなく、妻子や妾もいない。常に陛下だけに尽くしている。そう考えれば最もなことなのだがな…だが、私も陛下を愛しているのだ。この想いはピダムお前には負けない。陛下の隣に立てる男がお前一人ではないのだと、必ず解らせてやる。先ずは大耶城の奪還が優先だ!陛下にお伺いを立てて見よう。ご許可が出次第、出陣しようぞ)


ユシンが仁康殿に赴くと女王とピダムの姿がまだ廊下にあった。

ユシンは咄嗟に物陰に隠れて二人の会話に耳をそばだてた。


「ピダム…すまぬ」


「陛下…何をおっしゃるのですか?」


「謝ってはならぬというのだろう?」


「はい。陛下…」


「だがしかし、お前を又巻き込んでしまった。本当ならお前はチュンチュと共に秘宮に行き、徐羅伐陥落後の立案を立てるべきなのに…私の我が儘に付き合わせてしまった。神国を思うならお前を手放すべきなのだ…」


「陛下…」

女王の困り果てた様子を見たピダムは女王の手を握って囁いた。


「私に取っての神国は陛下です。陛下を救えずして神国が残ったとしても何の意味が有りましょうか?」


「ピダ…ム…」

やっと声にした女王は額に汗を滲ませ、ふらりと倒れそうになった。

それをピダムが支え

「陛下…ご無理をなされてはお身体に障ります。お部屋でお休みになられて下さい」

そう言って女王をさっと抱き上げた。

されるがままに女王はピダムの胸にその身を預け、まるで幼子のように安心仕切った顔をしている。

そんな二人を見てしまったユシンの胸はどす黒い嫉妬の塊で満たされた。

(陛下は何故ピダムにだけ己の弱さをさらけ出すのですか?私では駄目なのですか?伽耶の末裔と蔑まされて来た私に光を与えて下さったのは陛下でしたのに。その陛下が私を無視されるのなら……そんなにピダムが宜しいのなら……陛下の愛するそのピダムをいつか必ず陛下の御前で殺して見せましょう)


ユシンは残虐な想いを胸に秘めながら女王の元を訪れた。

女官がユシンの来訪を告げた。

既に女王の仮面を外したトンマンであったが…急ぎ取り繕うと椅子に座りピダムと共にユシンを迎えた。


「何か大事があったのか?」


(大事?…ピダムと共に居られることが大将軍たる私の進言よりも大事だと言うことですか?)


「大耶城には私をお遣わしになって下さい。必ず百済から奪い返してご覧に入れます」


「ユシン公、そなたの気持ちは良く解った。だが今宵は上大等と徐羅伐の防衛線を何処に設けるか、誰を徐羅伐に残すのか話し合うつもりだ。それも踏まえて大耶城のことも考えよう。明日の朝にもう一度来ては貰えぬか?」


「はい。陛下」


ユシンは顔色も変えず胸に刃を抱いたまま、仁康殿を後にした。




「ピダム…ユシンに先ほどの話を聞かれたのではあるまいか?」

女王の顔が更に苦しそうに見える。

ピダムは女王の目を見詰めながら


「陛下…例え聞かれたとしても心配なさいますな。ピダムがお側にいる限り必ず陛下をお守り致します。今は早く横になって下さい。後程様子を見に再び参ります」

そう言って女官に女王の支度を促すとピダムは部屋を出て行った。




***

ピダムが再び女王の部屋を訪れると女王は窓辺に座り、外を眺めていた。

今宵の月は満月に近く明るく輝いていたが時折雲がかかり、それが一層風情を増していた。


「陛下…」


「ピダム来たのか?気付かなかった」


「…」


「今宵の月は美しい。此方で一緒に見ないか…」


女王に誘われて、ピダムは窓辺へと近付く


「陛下…確かに今宵の月は美しいと思います。ですが彼方の雲が月を覆う頃には雨が降りだしそうです。それと……灯りを点したままでの窓辺は危険です」

ピダムはそう言うと部屋の灯明を一つだけ残して他は統べて吹き消した。


「ピダム…」

女王は少しばかり驚いたが…暗かりに目が慣れると再び月を見始めた。


「神国が危機に瀕していると言うのに…月は変わらずに美しい。女王でいることを忘れた訳ではないが、月を見ていると人とは小さな存在だと思い知らされる…今日は泣き言ばかり言っているな…ふふふっ」


女王の寛いだ様子にピダムの目元は幾分弛んだ。

そうして暫くの間、女王の側に寄り添うように佇んでいた。


(本当は此のまま陛下を私の腕の中に閉じ込めて如何なる荒浪からもお守りしたい…だが、今は神国の危急存亡の秋…陛下をお守りする為にはこの徐羅伐を守り通さねば!)

ピダムがそう思ったのを感じ取ったように女王が口を開いた。


「ピダム…月に大きな雲が懸かってしまった。そろそろ月見は止めろと言う事だな。灯りを点すように女官を呼んでくれ」

そして又窓の外の月を眺めている。


「はい。陛下…」


ピダムはそう返事をすると足音も立てずに女王に近付き、後ろから女王を抱き締めた。


「陛下…ほんの少しだけ此のままで居て下さい」


「ピダム…」


女王はピダムの腕に自分の腕を重ねて


「お前と一緒なら何も怖くない。だが…」


「陛下。何もおっしゃらないで下さい」



ピダムはそう言うと女王の首筋にある三日月形の痣に口付けを落とした。


「あっ…ピダム…」


女王の矯声に誘われるようにピダムは女王を此方に向かせるとそっと唇に触れた。

女王もそれに呼応し、互いの存在を確かめるように唇を合わせ続けた。


これから訪れるであろう嵐を他所に魂を寄せ合う二人。

それを月だけがそっと見詰めている。

その月ももうすぐ厚い雲に隠され、天も涙を落とし始めるだろう。

天に輝く月を雨雲が隠すように、神国も百済と…

そして大将軍によって大きく揺らごうとしていた。










皆様、こんばんは~(^-^)/

怒濤の約2週間がやっと終わりました(笑)

タイトな生活でしたが…振り替えると楽しいことばかりが浮かんできます。

色々ありました、多くの皆様と出逢うことが出来ました。

そして憧れの地『慶州』へ行けたこと。
駅から降り立った瞬間、ぞくぞくと体の奥底から込み上げて来るものがありました。

月城や陛下の陵墓などはツアーには組み込まれていなかったのですが…リクエストをしたらツアー会社が快く引き受けて下さり、私の望みが叶いました。

本当に感謝の仕様がありませんm(__)m

エステのアジュモニや食堂のアジュモニにも本当に良くして頂き、韓国が益々好きになりました♪

また近い内に訪れたいと思っています。


今夜は雨は降っていませんが…梅雨らしいSSをお届けしたいと思います。

よろしかったらお読みになって下さいね~(*^^*)






皆さ~~ん、こんばんは~(^-^)/

今日の関東地方は雨が降ったり、晴れたり…コロコロ変わるお天気でした。

今夜お届けするSSは少し季節外れになってしまいましたが…

待ち人Mさんのリクエスト『SS私のピダム 香り高きその名は』のその後にも続くお話でもあります(^o^)

そして…『SS私のピダム 金のトゥリゲ』や『SSS私のピダム 天の川』にも深く関わっています♪

では、よろしかったら続きをポチっとしてお読みになって下さいね~>^_^<


Tag:トンマン ピダム



管理人、どっぷり『太陽を抱く月』に浸かってしまいました♪

キム・スヒョン君の眸と力強い台詞回しにやられてしまい~~(+o+)

完全に廃人と化しております(笑)

ファンタジーなんですが彼の台詞にリアリティがあって。。。

もう眸うるうる

私が殿下を御守り致しますって言ってしまいそうです(*^_^*)

ナム君ごめんなさい<(_ _)>

でもあくまでドラマの中の殿下に惚れたのであって…スヒョン君に恋した訳じゃないので

お許し下さい、ピダムさま、ゴヌクさま、ナムギルさまぁ~(^^ゞ


今宵お送りするのは『SS私のピダム 水鏡』色々なものを写す水の鏡…

皆さんだったら何を水鏡に写しますか?

続きをポチっとしてお読みになって下さいね~(*^^)v





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