雪を頂く山々を朝日が照らし朱鷺色に染める。
その一時の美しさを独り占めして、澄んだ空気を胸一杯に吸い込んだゴヌクは
朝一番の新雪を踏んでシュプールを描いて行く。
誰にも踏み荒らされていない新雪はテラの美しい乳房のようで、
エッジを動かす度にサラサラと音を立てて崩れていく。
その音を聞きながらゴヌクは昨晩の逢瀬を思い出していた。
迂濶にも花びらを残してしまった白銀の世界。
何も残さず幻のように過ぎ去るつもりだったのに、
テラを抱き締めた瞬間、彼女の温もりと愛情に呑み込まれて己を忘れた。
我に帰った時には彼女は腕の中で失神していた。
まだまだ自分は甘い、肌に残る印をつけてしまうとは。
彼女がそれを見つけたら夢の中の出来事ではなかったことに気づくだろうに。
気付いて欲しいのか、欲しくないのか自分の心を持て余したゴヌクは
その気持ちを吹き飛ばすようにスキーを軽快に操り、一気に山を滑り降りて行った。
※
朝、目が覚めると微かにゴヌクの香りがしたような気がした。
頭がぼっーとして…昨晩の出来事が夢であったのか、現実だったのか…確証が持てないテラであった。
「私ったら、あんなことを…」
思い出すだけで顔が赤くなる。
ゴヌクの優しい眼差し。
頬に触れる少しゴツゴツした指先。
鳥の羽のように軽やかで、マショマロよりも甘くて柔らかい口付け。
その全ての感覚を身体が覚えている。
しかもゴヌクに股がり、激しく彼を求めた自分。
「あれは夢?…あんなにも甘美で淫らな夢を見るなんて…疲れていたのかしら?」
テラはシャワーを浴びる為に浴室へ入っていった。
いつものようにパウダールームにある鏡に写る自分を見た時、胸に薄紅色の跡が幾つかあるのに気付いた。
「あっ…」
テラの鼓動はこれ以上はないと言うくらいに高鳴り、身体の芯が疼いた。
「夢じゃなかった…ゴヌクが…テソンが生きてた」
そう呟くテラの大きな目からは涙が溢れた。余りの衝撃に身体が小刻みに震えた。
立っているのが困難な程に歯と歯がぶつかりカチカチとした音がする。
テラは子どものように膝を抱えてその場に蹲った。
★続きます。
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