SS私のピダム 紅梅の咲く陵(おか)
皆さん、こんばんは~(^o^)/

今回アップするお話はドラマ版をベースにしながら…
管理人の勝手な解釈をかなり盛り込んであります(((^_^;)

一口で表現するならトンピ版『サロメ』
だから、ちょっとホラーチックになってます♪

よろしかったら続きをポチっとしてお読みになって下さいね~o(^o^)o







消え入りそうに細い月が夜空にポツリと浮かぶ晩。
凍える程に寒い夜だと言うのに…
ぁぁぁ…んっ、ピダム…お前の腕の中は変わらずに温かい。
こうしてお前と身を繋ぎ合わせ心を抱かれて過ごす間、私は暫し王であることを忘れ去ることが出来る。
将に至福の時。
永遠にお前と二人きりで抱き合い睦合っていたいと思う唯の女になる。
寝台がギシッギシッっと軋む音が夜の静寂に木霊する。
はぁ、ぁぁ…ピダ、ム…
下肢が蕩けそうに熱くなるのを感じ始め…お前と光の中で一つに溶け合う…
そんな瞬間を迎えるまで後少し…
それなのにお前は絡めた長い指をすっと外すと私から急に離れてむくりと起き上がった。

「ピダム…」

そう不安な気持ちで呼び掛けピダムに目をやると胸や腹に数本の矢が刺さり、そこからどくどくと血を流す愛しい男のあまりに凄惨な姿に背中がぞくりと粟立ち

「どう、し、た?ピ、ダ、ム?」

と震えながらそう声を絞り出す私に

「陛下…私はこれにてお暇しなければなりません」

「ピダム?…その姿は何だ?どうした、何があった?」

未だに置かれている状況が掴めない私にピダムは

「陛下…お忘れになられたのですか?」

「何のことだ?ピダム?」

「陛下…」

ピダムはとても哀しそうな顔をして

「明日の夜また参ります故…それまでお健やかにお過ごし下さいませ、陛下…」

そう言葉を言い終えたピダムはまるでこの世の者ではないかのようにすっと消えて居なくなった。
口元だけ微笑ませて…
ピダムと言う煌々と輝く光、私の唯一の希望、それを失った世界は暗転し何も存在しない闇の世界へと変わって行く。
心の芯までが一瞬で凍るように寂しい『無』の世界。
心細くなった私はピダムの名を呼ばずにはいられず…叫ぶように愛しいその名を連呼した。

「ピダム、ピダム、ピダム…ピダム、どこだ?どこにいるのだ?」

ふっとある光景が頭を過る。
たった一人で数百の兵士たちが守る陣営に斬り込んで来る鈍色の衣を着た男。
兵士たちを薙ぎ倒し…放たれる矢に射たれ…
それでも真っ直ぐに私の元を目指して血塗れになりながらも近付いてくるピダムの姿が…

それを思い出した瞬間、私の思考は停止し「ピダム」とその名を絶叫すると同時に息が止まり苦しくて目覚めた。

はっとして辺りの様子を窺うとそこには寝台の側にある椅子に腰掛けて、私を心配そうに見詰めているマンミョン夫人の姿があった。

「陛下…」

そう呼ばれた私は微かに微笑んだ。

「陛下…気がつかれましたか?大丈夫ですか?」

「どのくらい私は眠っていましたか?」

「二日間です、陛下」

「そうですか…夫人、すまぬがチュンチュを呼んで貰えないだろうか?」

起き抜けにチュンチュに会いたい旨を伝えると夫人はそっと部屋から退出し、私の願いを叶える為に女官らに命を下しているようだった。
暫くうとうとと微睡んでいると女官がチュンチュの来訪を告げに枕元へとやって来た。

「陛下…チュンチュ公がお見栄になりました」

「通すがよい」

私は再び起き上がって身嗜みを整えてからチュンチュを迎えた。
流石のチュンチュも乱の終結と…いや、ピダムの死と同時に倒れ込み、こんこんと眠り続けて、死の淵から戻って来たばかりの私の姿を目にすると眉尻を下げて心配そうな眸で私をじっと見詰めている。
私は今までそうして来たのと同じようにチュンチュに対して肉親としての愛情の籠った微笑みを彼に向けながらこう切り出した。

「チュンチュや、心配を掛けました」

「陛下…」

「そなたと再びこうして話が出来て私は嬉しい…嬉しいが…チュンチュ…」

私はチュンチュの眸を射るように見詰めながら、こう言った。

「チュンチュや、単刀直入に聞くが…あの者の首は今何処に晒してあるのだ?」

チュンチュは私の言葉にぎょっとしたように目を大きく見開いた。

私は女王として触れてはいけない禁忌に触れた。
私の治世に対して謀反を起こした大罪人の亡骸…
犯した罪の重さによって胴体と切り離され晒され続ける私の愛しい男の首。
絶対に口に出してはいけない、それを口にした。

やっとのことで驚きと震えるほどの怒りをしまいこんだチュンチュがゆっくりと私の質問に答えた。

「陛下…あの者の首は謀反の首謀者として南門の外に晒してあります」

「そうか…では、首から下はどうしたのだ?」

「はい、兵に命じてどこぞの野に棄て去りました、陛下」

「そうか…」

私が涙の一つも溢さず取り乱しもせずに唯『そうか…』と答えたのがチュンチュにしては痛く不思議だったらしく

「陛下…お気を悪くなされましたか?」

そう質問を返して来た。
私はそれに対して無理難題を押し付ける言葉をさらりと言って退ける。

「いいや、チュンチュご苦労でした。私がこうして臥せっている間、私が遣るべき全ての仕事をそなたが取り仕切ってくれたのだろう?本当にご苦労でした。ところで…あの者の首なのだが…既に数日城の外に晒したのであろう…明日になったらその首を私の元に持って来てはくれまいか?」

それを聞いたチュンチュの眸に真っ黒な影が掛かり、唇が微かに震えたのが解った。

「えっ?」

「どうした、チュンチュ?」

「陛下…何故、今更、今になって謀反人の首を求められるのですか?本来ならば首が乾き切り朽果てるまでそのまま城の外に吊るし置き、最後は野に棄て去るのが慣例なのに…何故?何故、今更…よもやあの者を愛していたからなどと愚かなことを仰せにはならないですよね?陛下?いいえ、叔母上?」

と言って私を真っ直ぐに見詰め…睨んだ。
小さく息を吐き出した私は

「チュンチュ、そなたには憐憫の情と言うものはないのか?仮にもあの者はそなたの大叔父でもあるのだぞ!幾ら謀反人と言えども亡骸くらいは…」

私は布団の端を握り締めてその後に続く言葉を飲み込んだ。
そして替わりに

「私が亡き後はスンマンに御位を譲るが良い。まだそなたが即位すべき時ではない。そなたにはまだまだ足りないものが多い…多い故に今暫しそれを習い、人心を掴む術を学ばねばならぬ。良いな、チュンチュ」

「はい、陛下…」

そう返事をしてチュンチュは一礼すると退出して行った。
チュンチュは私の言葉をじっと聞いていたが内心ではどう思っているか解らなかった。
胸の奥がズキリっと痛む。
『死』の影がそこまで迫っているのが解る。
ピダム…もうすぐお前に又会える。
会いたい、一刻も早く…
あの時、私はお前の側に行ってやることも手を握ってやることも何も出来ないまま…
只黙って見詰めることしか出来ないまま…
お前を一人寂しく逝かせてしまった。
すまぬ、すまぬ、ピダム…

女王は一人寝台の上で暗闇の向こうで微笑んでいるピダムの幻に謝り続けた。



**

翌朝の東雲時…
上将軍ユシンの元に南門に吊るしてあった『謀反人の首』が忽然と姿を消してしまったとの報告がなされた。
ユシンは直ちに兵部の兵を動かして『首』の捜索を始めたがその日の日没を迎えても遂に見付けることが出来なかった。
国を真っ二つにするほどの騒動がやっと収まり、女王も目を覚ましたとの吉報を耳にして…今日こそは女王の元に馳せ参じようと思っていたユシンの思惑をこの一件が邪魔をした。
生きている間もずっと目の上のたん瘤だったあの男は死してからも同じように自分を遮る。
いっそこのまま首が見付からなければ、もう二度とあの男の顔を見ずに済むと思うと…それはそれで構わぬのではないかとユシンは心の奥底で自問自答をするのだった。

日も大分暮れ闇が辺りを支配する頃、ユシンは女王から珍しく仁康殿の私室に呼び出された。
真っ白な夜着を着て髪を下ろした女王は震えるほどに美しく…
ユシンは今直ぐに女王をそのまま押し倒してその白い肌に己の印を刻んでしまいたい衝動に駆られた。
ゴクンと喉を鳴らして唾を飲み込むユシンに女王はゆっくりと話を切り出した。

「ユシン公、ピダムはあの時何と言っていたのですか?」

ピダムと言う名前を女王が口にしたのを咎めるような表情で

「恐れ多くて口に出しては憚られることです。お許し下さい、陛下…」

「ユシン公、それでも私はあの者が…ピダムが何と言っていたのか知りたいのです」

尚も躊躇するユシンに

「王命です。ユシン公」

ユシンは女王の眸を射るような眼差しで見詰めながら

「トン、マンとそう言っておりました」

女王はふっと息を吐くと

「そうですか…」

と小さく言った。
そして膝に置いた白い包みを卓の上に乗せるとそれをそっと開いて…ユシンの探していたピダムの素っ首を取り出したのだった。

「へ、い、か…それは?」

爛々と輝く女王の眸にはピダムの首しか映っていない。

「ピダムだ!ピダムの首だ…私のピダムの…」

「陛下…ピダムは既に死にました」

女王はきっとユシンを睨みながら

「何を言うユシン、ほらピダムが私を今『トンマン』とそう呼んだではないか?そなたには聞こえぬのか?ユシン…」

そう言って愛しそうにピダムの首を胸に抱く女王の姿にユシンは驚き椅子から転げ落ちそうになった。

「陛下…」

ピダムと女王が『恋仲』であることは解っていたではないか…
いや恋仲などと言う言葉で片付けられない。
既に二人の仲は夫婦と言って良い間柄だったのだから…
なのに私はあやつに留目を刺した。
陛下が…貴女が私にそう命令したから。
なのに何故今になって『謀反人』であるその男の首をそんなに愛しそうにお抱きになるのですか?
それなら何故あの時、一言『止めろ!』と仰せにならなかったのですか?
陛下…

ユシンはまだこの時女王の死期が近いことを知らずにいた。
血に塗れたピダムの首を愛しげに胸に掻き抱く女王が余りに哀れで…いや、哀れと言うよりは薄気味悪くもあり。
それ以上その場で正気を逸した女王の姿を見るのが心苦しくなったユシンはそっと席を立つと女王に一礼して仁康殿を後にした。

陛下…狂っておいでか…

渡り廊下を足早に去って行くユシンに雪交りの北風がびゅんと吹きつけた。
目を瞑ってそれをやり過ごそうとした瞬間、脳裏に先ほどの光景が甦ると足元に地獄の門が開いた如く、自分を取り囲む無限の暗がりにクラリと吸いこまれそうになった。

おっと、そこにいるのはお前か…謀反人ピダム!

ユシ、ン…

ハッと我に返ったユシンは剣を抜くと暗闇を一刀両断の元に斬り裂いた。
廊下を照らす灯火が一斉にゆらりと揺れたかと思うとユシンを取り巻いていた闇は消え去っていた。
剣を鞘に仕舞うとユシンは何事も無かったようにその場からゆっくりと歩き出した。
だが、その背中には真冬だと言うのにベットリと汗が滲んでいた。




**

闇が一層濃くなる時刻に女王は誰に看取られることなく静かにこの世を去った。
翌朝、冷たくなって動かない女王を最初に見付けたのはユシンの母親であるマンミョン夫人であった。
死んでも尚輝くように美しい女王の亡骸をじっと見詰める夫人の眸には今にも目を覚まさんばかりの女王のその安らかな死に顔が慈愛に満ち溢れているように映った。
それは将に幸福の絶頂の中で死を迎えた者の死に顔に違いなかった。

昨夜、陛下を迎えに来たのはあの者…
あの長身の黒衣を羽織った死神のような男。
陛下の御代に反乱を起こした大罪人。
だがしかし陛下にとってはこの世で愛した唯一の男であったに違いない。
若かりし時この世の全てを信じていた時…
私も陛下と同じように『恋』に身をやつした時があった。だから理解出来る。
あの頃はこの世にあるのは唯二人…生きるも死ぬも愛する二人一緒ならば幸せだと思っていた。
陛下、お一人で逝かれた訳ではなかったのですね?
そのお顔を拝見すれば解ります。
あの者と御一緒に逝かれたのですね?
陛下…陛下…
どうかあの世ではあの者と幸せにお過ごし下さいますように…
陛下…

女王の亡骸を見詰めるマンミョン夫人の頬を幾筋もの涙が流れ落ちていた。
夫人は一人静かに女王の亡骸の側に暫し佇み、その安らかな死に顔を見詰めながら薄幸の麗人とその影として生きた男の在りし日の姿を思い起こした。

桜の花の舞い散る中で雌雄の蝶が戯れるように寄り添い合い…
蛍の飛び交う熱い夏の夜でさえも一歩も離れず…
暮れ泥む黄金色の夕陽を眺めながら微笑み合い…
初雪のちらつく寒い晩に身を寄せながら楽しそうに語り合う姿はそれはそれは溜息が出るほどに美しく…
女官やら若き官吏らがその場に出くわすと固唾を呑み込んでは羨ましそうに眺めているのを幾度見掛けたことか…
それなのに何故、どうしてこのようなことになってしまったのか…

心の奥底に悲しみを仕舞い込むように夫人は涙をそっと拭うと女王の顔に掛かった一筋の黒髪を整えようと手を伸ばした。
その刹那、部屋の奥の臼暗闇の向こうからクスクスッと楽しそうに笑う二人の声が聞こえたような気がした。


暗く長い黄泉路も二人なば…

女王の魂は愛しいピダムに導かれあの世に旅立った。
まだ女王が公主にも復権していなかった頃、囚われのピダムが『自分が死ぬのは王が亡くなる三日前だ!』とピダムの実の母であり、時の最高権力者だった璽主ミシルの前で宣言した通り…
女王はピダムが息を引き取った丁度その三日後にこの世を去ったのだった。




続く



☆最後までお読み下さり、ありがとーございました<(_ _)>
このお話はある方の絵を拝見した時に頭の中に降りて来ました♪
ピダムの生首を大事そうに抱きながら宮殿内を徘徊する女王。
白い夜着に紅色の衣を羽織って…魂は半分あちらの世界に飛んでしまってるトンマン。

あくまで妄想ですので…
こんなお話もあっても良いかなと…(^^ゞ

乱の後にピダムの首ってどうなったのかなぁ~って前から気になっていたので。。。
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