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風の歌声

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SS花人(はなびと) その弐

『雲が描いた月明かり』
最終回のコスモス畑でのヨンとラオン
素敵なシーンですよね♪

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今回のお話の中でラオンが着ている衣はこれ↑をイメージしました!





悠々たる山々を彩るのは萌え出たばかりの若葉たち。
御陵を囲むように植えられた薄紅色の桜たちがまるでその緑色の衣に帯を巻いたように、今を盛りに咲き誇っている。
ここは愛して止まない母后が眠る場所。
ヨンはラオンだけを伴い、今年もここへやって来た。

『母上、季節が再び巡って参りました。愛する女人唯一人を伴い、護衛も付けない、国王らしからぬ私の行動をどう思っておられますか?』

『ふふっ、そうですね。愛する者と生涯を共に出来る…それ以上の幸福がこの世の何処に存在するとお思いですか?』

『そう仰ると思っておりました』

『何事も、そなたの心の赴くままに…。民草の一人一人を第一に考えれば、残りはそなたの自由にして良いと母は考えます』

『母上…ありがとうございます』

ラオンと二人、御陵に向かって手を合わせるヨン。
長いこと微動だにせずそこに佇んでいる。
と、微風がすうっと二人の頬を撫で去って行くと桜の花弁が数枚、ラオンの美しい黒髪に降り立っていた。
ほんの少し先に目を開けたヨンは腕を伸ばして、それを取ろうと試みた。
だがヨンの気配を感じて空かさず目を開けたラオンに阻まれてしまった。

「殿下、如何なさいました?」

「そなたの髪に桜の花弁が舞い降りたようだ」

大きな目を見開いてラオンが…

「えっ、花弁が?…」

「ほら、ここに」

ヨンはそれを指で摘まんでラオンに差し出した。

「あら、まあ、本当に」

「嘘だと思っていたのか?」

「いいえ、殿下は私に嘘は仰いませんから」

唇を突き出し、不満げなヨンに向かって満面の笑顔でそう答えたラオン。

「また、そなたは…」

「何です?殿下」

「自分では分かっていないと思うが、反則ばかりしている」

「えっ?」

美しい瞳を震わせてヨンを見詰めるラオン。

「もう我慢が効かぬ」

そう言って、薄桃色のラオンの唇に口付けを落とすヨン。

『母上、お許し下さい』

『やっ、殿下、お母上の御前ですよ』

『良いのだ。母上も分かって下さる』

口付けを交わしながらも互いを気遣い合う二人。
心の中の会話が漏れ聞こえたのか…
くすくすっと楽し気に笑う声が御陵の彼方側から聞こえたような気がした。

「今、笑い声が…」

「ああ、余にも聞こえた」

ヨンの胸に閉じ込められたままのラオンはびっくりしながらも、トンっとヨンの胸元を手で押し除けて

「もぉ、殿下が悪いんですよ」

「何が悪いと言うんだ!」

「お母上の御前だと先ほども申し上げましたのに…」

「そんなことは聞いていない」

「心の内で強ーく申し上げました」

言い合いながら、どんどんと声が大きくなって行く二人。
神聖な御陵に居るというのに、いつも通りの派手な痴話喧嘩を始めてしまった。

「心の中の声など、余には全く聞こえてこぬぞ」

「もう、殿下なんて嫌い!」

「ああ、嫌いで結構…」

「殿下の意地悪!」

そう叫ぶように言い切るラオン。
御陵に向かってきちんと一礼すると、くるりと向きを変えて、ヨンから逃げるように駆け出した。

「あっ、こら、待て!」

ヨンも慌てながらもきちんと御陵に向かって一礼すると、ラオンを追って駆け出した。
女人の衣を纏えども、内官時代に磨きを掛けた逃げ足は今も全く衰えておらず…
ラオンは遥かな先を疾走している。

「待てと言うのに」

前を向いたまま大声でそれに答えるラオン

「嫌です。待ちませーん」

「今に芝で足を滑らせるぞ」

「滑りませんよー」

「危ないから、もう止すんだ。ラオン」

そんなヨンの心配が今、目の前で現実となりつつあった。
小石に躓いて右足を捕られたラオンがすてんと滑って尻餅を着いたのだ。

「きゃっ、あっ、痛ぅ」

そう叫びながらも、ずっと男装をしていただけあってラオンは咄嗟に受け身を取っていた。
それでもラオンが心配で、顔をひきつらせて急いで駆け寄るヨン。

「大丈夫か?怪我はないか?」

「大丈夫ですが…その、お尻が痛いです」

「当然だ!」

不機嫌そうに大声を張り上げたヨンを見上げたラオンの瞳からは今にも涙が溢れんばかり。
かなり動揺している。
懐からさっと手巾を取り出し、ヨンはラオンの涙を拭いながら、優しく言葉を紡ぐ。

「だから申したではないか、危ないと」

「…」

「さあ、もうそろそろ機嫌を直してくれぬか?」

黙って頷くラオンに

「私の背中に乗って、共に参るとしよう」

「えっ、ですが殿下…」

「国王の背になど乗れぬと申すのか?」

再び黙って頷くラオン。
困惑気味のラオンの頭をくしゃりと撫でてから、ヨンはラオンに背を向けて屈むと

「ここには誰もいないし、きっとあの者も首を長くして待っておろう。さあ、早く私の背中におぶさるが良い」

「はい、ではそう致します。殿下」


**
広く温かなヨンの背に揺られながら、過ぎ去りし内官時代に想いを馳せるラオン。
ヨンはヨンでラオンをおぶってから一言も言葉を発していない。
黙々と歩む二人を余所に、その行く手を祝福するかの如く、桜の花弁が風に乗ってひらひらと舞い散る度に道が桜色に染まっていく。
ふっとヨンがやっと重い口を開いた。

「ここは何時来ても美しいな」

「ええ、特にこの桜の季節はまるで仙郷のように美しいと思います」

「そうだな。まだ咲いていないと思っていたのだが…」

「はい、確かに。ここは日当たりが良いから桜の開花が早いのかもしれませんね」

「そうかもしれぬな」

御陵の最も奥にある桜の庭とでも言おうか…
木漏れ日がきらきらと緑の芝を照らす場所。
良く見るとこんもりと盛り上がっている部分があるのが解る。
墓標も何もないが、そこは誰かが眠る墓所。

「着いたぞ」

そう言って、ラオンを下ろす為にヨンは少しだけ体を屈めた。

「殿下、ありがとうございました」

「いや、怪我の具合も大したことがなくて本当に良かった」

「ごめんなさい。もう無茶は致しません」

「ああ、そうしてくれ。これ以上心配事を抱えたら心労で死んでしまうかもしれん」

「死ぬなんて、不吉な…」

「確かにな。ここで眠るあの者に叱られてしまう」

「はい、ナウリィに申し訳が立ちません」

「供物の準備をしようか」

「はい」

菓子や果物、そして花を供えると、蝋燭に火を灯すラオン。
その火を使って、ヨンは手にした線香に火を点す。

「ユンソナ、待たせたな。寂しくはないか?」

線香の半分をラオンに渡すと、残りを墓前に捧げ…
ラオンもヨンに続いた。
二人並んで墓前に手を合わせ…目を瞑り、佇む。
香の香りが辺り一面に広がり、動くものはひらひらと舞い落ちる桜の花弁だけ。

『ナウリィ、貴方がいらっしゃらなかったら、今の私は存在しなかったでしょう。本当に本当にありがとうございました』

『ユンソナ、お前とはもっと語り合い、酒を酌み交わし、ずっと余の側で、余を支えて欲しかった。すまぬな、そなた一人だけを寂しい土の中に追いやってしまった』

『良いのです。私は最後の最後に自分の意地を貫けたのですから。それ以前の私の人生はお祖父様に操られるだけの人形でした』

ホー、ホケキョ…
何処から一匹の鴬がやって来て、美しい声で一声啼いた。
すると後からもう一匹やって来て、二匹で忙しく啼き始めた。

「ラオナ、そろそろ目を開けよ」

「殿下?」

「ユンソナがあの鴬たちのように仲良くしろと私たちを諭しておるようだ!」

「ええ、本当に愉しげに仲良く啼いていますね!」

「ユンソナの為にも私たちは希望を胸に生きねばならぬ。そこでだ、ラオナ…」

そっと手を握り、ラオンの大きな瞳をじっと見詰めるヨン。

「入宮して正式に私の妃になって欲しい」

「えっ」

「辛く苦しい道のりになるだろうことは分かっている。だが、私の子を産むのはそなただけ。全力でそなたと子を守る故、余の側にいてくれぬか?」

「殿下…」

そう言って、ラオンはすっと息を吐き出すと、そこに眠るユンソナの声を聞こうと目を閉じた。

『ナウリィ、私はどうしたら良いのでしょう?』

『ラオナ…君はどうしたい?』

『お側にいたいのは山々ですが、私のような賎しい身分の者が殿下のお側に侍ることは許されないのがこの世の理。まして殿下のお子を産むなど…』

『私は知っている。君の腹には既にその子が宿っていることを!』

『ご存知でしたか?』

『早くそれを君の愛する人に伝えて、そして幸せになるんだ。ラオナ…』

『ナウリィ…』

『君の幸せをずっと祈っているよ』

『ナウリィ…ありがとうございます、ナウリィ』

ゆっくりと目を開けると、そこには心配そうに自分の顔を覗き込んでいるヨンの姿があった。
思わず吹き出しそうになったラオンだったが…

「殿下、殿下のお申し出をお受け致します」

「誠か?ラオナ…」

「はい、誠でございます。それに…」

あまりの歓喜に、ラオンの言葉を最後まで聞かずにヨンはラオンをふわっと抱き上げて、その場でくるくると回り出した。

「誠に誠に嬉しきことぞ!」

「殿下、あの、殿下…」

「一生そなた一人と添い遂げる。そしてこの太平の世が末永く続くように、余はこれからも精進することを厭わぬとここに誓おう!」

全く耳を貸そうとしないヨンの耳元に口を寄せるラオン。
声を振り絞って

「殿下!私、殿下のお子を宿したようです」

「えっ?何だって?」

「ですから、子が出来ました!」

鳩が豆鉄砲を食らったような何とも言えぬ可笑しな表情をしながらもラオンをゆっくりと地面へ下ろしたヨン。
気持ちを落ち着かせる為に数回大きく息を吸ったり吐いたりし終えると

「ラオナ…嬉し過ぎて、何と言ったら良いのか…」

「私もです」

「ありがとう、そしてこれからもずっと、その一緒に生きて行こう。そなたとその子と余と…」

「はい、共白髪となるまで、ずっと、ずっと」

微笑みながらラオンに近付くとヨンはラオンをそっと抱き締め、蒲公英の綿毛のような口付けをした。
甘い甘い蕩ける程の口付けを交わした後、ヨンはがらりと雰囲気を変えて

「ところでラオナ…腹に子がおると解っていながら、先ほどは走り回って転びもした。母親としてそんなことが許されると思っておるのか!」

と何時ものようにラオンに説教を始めた。

「だって、その、殿下が…」

「だって、何だと言うのだ。私が悪いのか?」

「いえ、でも…」

「でも、何だ?」

再び始まった二人の痴話喧嘩を眺めているのは満開の桜たち。
二人の新たなる門出を祝福するように、桜たちは風に乗せてひらひらと花弁を舞い散らす。
春爛漫、のどけき時よ、疾く、過ぎ行くな。






☆最後までお読み下さり、ありがとうございました(*- -)(*_ _)ペコリ
身分が低くとも実際に王の妃になった張禧嬪(チャン・ヒビン)やトンイ(淑嬪崔氏)もいるので…
ラオンが妃となって、ヨンの子を産むのも有りなのではないかと…

☆Nさん、お待たせしましたm(__)m


SS花人 その壱

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Category - 李韺『雲が描いた月明かり』

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