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SS私のピダム にはたづみ(潦)再会

風薫る5月も残すところ二日となりました。
梅雨入り目前!
花粉の季節も嫌だけど、ジメジメする梅雨はもっと嫌いかも~(T_T)
暑くても早く夏になって欲しい管理人。
夏生まれなので、夏が好きです

前作『葵花向日』を書いた時に、まだ『善徳女王』の二次を待って下さってる方がいらっしゃるのを知り…
休止していた連載物の続きを書いて見ました!
この作品も遥かな昔に書いていたものなので上手く書けたかどうか…(^^ゞ

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宜しかったら、続きをポチッとしてお読みになって下さいね~(^ー゜)ノ



そよ風と言う名の微風が空を駆け抜け木々の梢を渡り、私の元にふらりとやって来た。
蒲公英の柔らかな綿毛のように頬を撫でると、あっという間に去って行った。
何と気持ちが良いことか。
風に誘われるまま、陽当たりの良い縁側に出て空を見上げると…
果てなき蒼窮の白雲の湧き立つ処から…
次から次へと雲が湧き上がっては流れ行くのが見えた。
あの場所まで昇れば、海の彼方の…
愛して止まない我が祖国、神国を見渡せようか。
ならば逸そ、この躯を捨て去り、魂だけの存在になりたい。
日がな一日、ぼんやりと物思いに耽ることが唯一私の慰めだった。
そんな鬱々とした日々を送っていた、ある日。
ウムに付いて久方ぶりに外出することになった。
気持ちがざわざわとして落ち着かない。
薬師と呼ばれる謎を抱えた男に会うせいなのか。
化粧を施し着替えも済ませた。
一先ず輿に乗って、それから気持ちを落ち着かせよう。
ウムにもサンタクにもこの浮わついた気持ちを気取られぬように。



**
薄暗い洞窟をウムの背だけを頼りに進んで行くと、其処には薬師と呼ばれる長身の男が横たわっていた。
この年、斑鳩周辺で猛威を奮った流行り病の治療の為に薬師として奔走した結果、長年に渡る放浪生活で弱っていた体に疲労が蓄積され、遂に一週間ほど前、皆の見ている前で昏倒したらしい。
手紙を書けるほどに回復しているのだと思いきや、未だに熱に魘されているらしく、時々うわ言を言っているのが聞こえた。
今、何と申した?
我が名をトンマナと…
そんな筈はない。
ピダムは、ピダムは、あの乱の折りに死んだのだ。
そう頭の中で何度も反芻する自分がいた。
だが…
みすぼらしい身なりはしていても、その男の放つ魂の輝きを遮ることは出来ない。
灯火を手にするウムの側ににじり寄る。
顔の左半分が酷い火傷をおっていることが見てとれた。
だが、右半分の整った美しい面差し…
それを忘れることが出来ようか…

「ピ、ダ、ム?お前なのか?」

私のその言葉にびくりと反応したのは他ならぬ我が息子ウムだった。

「母上、何を仰います。父上はあの乱の折りに亡くなったと…」

「だが、そうなのだが…、そこに横たわっているのは…お前の、私の…ピ、ダムに相違ない…」

「相違ない?」

身動ぎも出来ずにその場に立ち尽くす私。

「母上?母上?如何なされました?」

膝がガクガクと揺れ出すとウムの声がどんどんと遠ざかり…、私はあっという間にその場に倒れてしまったらしい。



**
一人闇の中を随分長い時間さ迷っていると何処からか

「トンマン、ナエ、トンマナ」

私の名を呼ぶ、妙に耳に心地好く響く聞き慣れた低い声音が聞こえた。
この声の主は…主は…
瞬時に血潮がトクトクと音を立てながら身体中を駆け巡り、指先が微かに震え出す。
これは夢だ、私は夢を見ているのだ。
ああ、やっと、あの世に召されたピダムが私を迎えに来てくれたのだ。
そう思って、何度も目を開けようと試みているのに、何故か一向に目を開くことすら出来ずにいる。
焦りと歯痒さに負けまいと心の内で『私を連れて行ってくれ』と強く念じてそれを打ち消した。
ウムには申し訳ないと思いながら、ここ数年の私の最たる望みは死することだった。
あの乱の折、あのまま神国に残り、上大等であり、我が愛する夫ピダムと共に死するべきだったのだ。

「トンマン…トンマナ」

再び、優しく私を呼ぶ、懐かしい声が聞こえる。
これは夢なのか…現なのか…

「う、ん?ピ、ダム?」

咄嗟に私はそう口にした。
すると温かな手が私の右手を包んで握り締めた。

「はい、陛下。いや、トン、マン」

久方ぶりに陛下と呼ばれ…
重い瞼を必死に開けると、そこには心配そうに私を見詰めるピダムが座っていた。
心の臓が壊れるのではないかと思う位にどくんと跳ね上がる。
驚きと喜びと…様々な感情が一気に心を掻き乱し、息が…
息が出来ない!
苦しみ悶え、起き上がれずにいる私をピダムがそっと抱き起こしてくれた。

「ピ…、ぅ、ぁ…ぁぁ、うっ……」

ピダムと、その名を呼ぼうとしたのに、泪が止めどなく溢れ出ると身体中の力が抜けてしまい何も出来ない。
何も考えられない。
ピダムは取り乱し泣きじゃくる私をしっかとその長い両腕で抱くと、赤子をあやすように背中を優しく擦りながら

「トン、マン、済まなかった。会いに来るのが遅くなって」

と、幾度も幾度も謝罪し続ける。

ピダム…
お前が謝るのか?
私を護る為に城に残ったお前が…
謝るのは私の方なのに…
お前一人を城に残し…
全てをお前だけに押し付けてしまった私を…
私こそを許してくれ、ピダム。

ダメだ、そう思っていても声に出来ない。
お前に再びこうして巡り合えた喜びに私は唯泣くことしか出来ずにいる。
今少し、もう少しだけこうしていてくれ、ピダム。


**
漸く心が落ち着いた私はここが斑鳩にある家の一室であることを理解した。
ピダムの肩ごしにそっと顔を上げて表を見ると南西の空に上弦の月が浮かんでいるのが見えた。
美しい。
月はそこにあるだけで何と美しいのか…
今も昔と変わらずにそこにある。
変わらぬ物は月だけではない。
私の気持ちが落ち着くまでと黙って背中を擦ってくれたピダム。
この男が長い間私に捧げてくれた忠誠心と無限の愛情とが…温かな掌から今も犇々と伝わってくる。
ああ、私は幸せ者だ。
このまま、お前の腕の中で微睡み続けていたい。
だが…
今はまだ幸せに浸る訳には行かぬ。
私とお前が女王と臣下だった頃の、事の顛末を見届けなければならない。
私はすっと息を吐き切るとピダムに向かってこう切り出していた。

「して、ピダム、その、何から聞けば良いのだろうか?」

「陛下、落ち着かれましたか?ご気分は悪くないですか?三日も眠っておられたのです」

「そんなに…」

「はい。大変心配致しました。替わりに…と言ってはなんですが、私はこれこのように快復することが出来ましたが…」

「ピダム、心配を掛けたな…」

「はい、いえ、陛下…。して、私にお聞きになりたいのは、私があの乱の折にどのようにして生き延び、どのようにして倭国に渡り、そして、今までどのように生きて来たのか、そんな所でしょうか?」

「うん、そうだ。そんな所だ」

私が何事もなかったかのように、しれっとそう答えるとピダムは

「お変わりになりませんね、その物言い」

そうぽつりと吐き出すように言って、クスリッと笑った。
咄嗟にピダムの笑った顔が見たくて、ピダムの胸の中からそっと抜け出して、その顔をまじまじと見詰めた。
端正な右半分が美し過ぎる故、左半分を覆う火傷の痕が痛ましい。
そっと手を伸ばしてそこに触れた。

「今も痛むのか?さぞ痛かったのだろうな」

ピダムは私の手首をそっと掴んで顔から離すと

「大丈夫です。もう今は痛くも痒くもありません」

「それなら良いが…あの乱の時の傷なのか?」

「はい、私が私自身を焼くために放った焔に焼かれたのです」

「何と申した?今、自身を焼くためと言ったか?」

それまで穏やかだったピダムの表情が神妙な面持ちに変わると話す声音も一層深くなり

「はい、私自身を焼こうと城に火を点けました。何故なら…」

そこまで言うとピダムは沈黙した。
暫く黙ってまんじりともせずにいたピダムだったが

「失礼を致しました。そうですね、やはり乱のお話からすることに致しましょう」

そう言って私から離れると私と肩を並べるように座り直したピダム。
二人庭に向かって座る形となった。
どうせならピダムの顔を見ながら話を聞きたかったが、そうなればきっと途中で私が泣き出すと思ったのだろう。
敢えてピダムはそれを避けたに違いなかった。

「あの後、私は急ぎポジョンらと明活山城に陣を構え、謀反人どもを迎え撃つ準備を致しました。それと同時に地方の貴族たちに伝令を飛ばし…」

「伝令は届いたのか?」

「はい、届きました。しかし奴等は既に地方の軍に対する防御線を徐羅伐一帯に周到に引いておりました」

「かなり早い段階から用意していたと言うことだな。では、内と外からの挟撃は出来なかったのか?」

「はい、陛下、仰る通り。我らは援軍と上手く呼応することが出来ませんでした」

「では孤立した明活山城の兵だけで、ユシンが率いる五万もの大軍とお前はどう戦ったのだ?」

「戦いました。それこそ、私の知り得る限りの策を屈指して。奇襲攻撃、陽動作戦…この命の尽きるまで。戦い続けました」

そこまで言うとピダムはふうっと長く息を吐き出して空を仰いだ。

「ですが多勢に無勢。三月以上籠城して戦いましたが…兵糧が尽き…兵もどんどんと減って行き…」

ピダムの両手が微かに震えていた。
苦しかったのだろう、いや、悔しかったのだろう。
神国の闘神と畏れられた剣の使い手ピダム。
武将としての道を進めば、どれほどの功績を立てたであろう。
だが、私はピダムに文官の道を進ませてしまった。
後悔ばかりが先に立ち…
ピダムにどんな言葉を掛けたら良いのか…
悩んでいると…

母屋と離れを隔てる木戸をカタンと開ける音に続けて、サンタクの声が聞こえてきた。

「あのぉ、奥方さま、さんで、じゃなかった。ご主人さま、お邪魔してもよろしいでしょうか?」

「ああ、サンタクか、如何した?」

私がそう問い掛けると、申し訳なさそうに姿を現したサンタクはぺこりと叩頭してから

「ウムさまが、そろそろ夕膳を取りましょうと。母屋でお待ちになっておられます」

「そうか。もうそんな時間か…。だが、あちらは人手も多く落ち着かない。こちらの方が気が楽なのだが…」

「まあ、確かに左様でございますね。ですが、その、奥方さま。ウムさまが使用人たち全てに突然三日間ほど暇をお出しになりまして…」

「えっ」
「なんだと!」

思わず二人同時に声を上げてしまったが、サンタクは言葉を続けた。

「ウムさまのご両親を思う気持ちには本当に頭が下がります。ささ、汁物が冷めない内に…早く参りましょう」

「そうだな。そうしよう。親子三人、顔を揃えて膳を囲む…これ以上の喜びはないからな」

居住まいを正したピダムは父親然としてそう答えると、私をさっと抱き抱えて立ち上がった。
ピダムの黒曜石の眸が生き生きと輝いて見える。
一方、私は…
ピダムを失ったことばかりを嘆き、無為に生きてきた己の不甲斐なさを心の中で恥ながら、頬を赤く染めるしかなかった。



続く。



☆最後までお読み下さり、ありがとうございました(*- -)(*_ _)ペコリ
この作品を書き始めた時はトンピが再会したら終わりと思っていたのですが…
せっかくなので、この後の幸せに暮らす二人の様子(四十代後半~)をもう少しだけ書いて見ようと思っています。
もう暫くお付き合い下さいね~

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Comment (4)

のんのん #-

うれしい〜❤︎

テヤンさんが語ってくれる2人の新しい話を読むことができて、本当にうれしいです╰(*´︶`*)╯♡
トンマンとピダム、会えたんですねっ!
うううっ… 感動です…(;ω;)
しかもまだ続きもあるなんてっ!楽しみはまだ終わらない〜🎶
テヤンさん、本当にありがとうございます。
あー、続き楽しみ!
(あ…あんまりプレッシャーに思わないでね)

2018/06/16 (Sat) 18:54 | URL | 編集 | 返信 | 

テヤン #-

返信、遅くなりましたm(_ _)m

のんのんさんへ


こんにちは♪
返信が大変遅くなってしまい、申し訳ありませんでしたm(_ _)m
ローランギャロス(テニス・全仏オープン)に始まり…ワールドカップ&ウィンブルドンを毎晩観戦する内に軽い自律神経失調症になってしまい…体調今一つでして(^^ゞ
これからは少し自重しながらスポーツ観戦もしなければ…と思っております。


> テヤンさんが語ってくれる2人の新しい話を読むことができて、本当にうれしいです╰(*´︶`*)╯♡
トンマンとピダム、会えたんですねっ!
うううっ… 感動です…(;ω;)

ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
そう言って頂けて、わたしも嬉しいです。
再会をこれ以上引き延ばす訳には行きませんよねー!
早くしないとトンピも自分も歳をとってしまうので…(笑)


> しかもまだ続きもあるなんてっ!楽しみはまだ終わらない〜🎶
テヤンさん、本当にありがとうございます。
あー、続き楽しみ!
(あ…あんまりプレッシャーに思わないでね)

のんびり書かせて頂く予定ですので…(^^ゞ
時々、覗いて見て下さいねー♪
構想としては…①このまま斑鳩周辺でウムと三人(+α)で暮らす
②全く別の土地に行って、二人だけで暮らす
あっ、サンタクの存在を忘れてたー(笑)
旦那(ピダム)が何でも出来る設定なので…
どうしましょうねーー(*^.^*)

コメントありがとうございました(*^ー^)ノ♪

2018/07/12 (Thu) 14:04 | URL | 編集 | 返信 | 

明葵 #tqRlAh7s

はじめまして!素敵な小説幸せです。

はじめまして!明葵といいます。
何年かぶりに善徳女王に再熱しておりまして、その頃は二次小説の存在を知らずただただ、善徳女王の最終回に泣いてばかりだったのですが、久しぶりに善徳女王を見て、さらにハマり、二次小説の素晴らしさを知り今に至っております。
トンマン&ピダムが大好きな私にとってテヤン様の小説は至福の極みです!
これからゆっくりと楽しませて頂こうと思っております!

2018/08/17 (Fri) 00:05 | URL | 編集 | 返信 | 

テヤン #vbu/5PMA

ようこそ二次の世界へ

明葵さんへ



>はじめまして!明葵といいます。

こんばんは♪初めまして管理人のテヤンと申します(^^)


>何年かぶりに善徳女王に再熱しておりまして、その頃は二次小説の存在を知らずただただ、善徳女王の最終回に泣いてばかりだったのですが、久しぶりに善徳女王を見て、さらにハマり、二次小説の素晴らしさを知り今に至っております。

再熱してるんですねーΣ(*゚Д゚*)
最終回は何度見ても涙無しには見られませんよねー!
そしてようこそ二次小説の世界へ(笑)


>トンマン&ピダムが大好きな私にとってテヤン様の小説は至福の極みです!
これからゆっくりと楽しませて頂こうと思っております!

もう何度も書いていますが…
わたし、二次小説の読み手から書き手に転じた者です。一から始めたので…初期作品はとても拙いと思います。
でも、トンピを愛する気持ちは初期の方が熱かったかもしれません。
今はかなり鎮静化していますが…それでも時々、思い出したように書き続けております。
ピダムは不滅です!
そして…トンピ幸せ計画はこのブログのテーマであり、ブログを立ち上げた切欠でもあるので、これからも頑張りまーす♪

そろそろ新しい作品を出そうかなぁと思っていたりして…(^^ゞ

テヤン

2018/08/17 (Fri) 23:42 | URL | 編集 | 返信 | 
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